13th stage!

「KiRaRe、合宿へ行く」


扉イラスト:和泉つばす 挿絵イラスト:稀星学園高尾校美術部




 ある日の連休。プリズムステージ東京予選の決勝を目前に控えたKiRaReは、打倒ステラマリスをめざし、山奥にある合宿所へ来ていた。
「はーい到着~、ここがうちらの合宿所やー」
「え…嘘でしょ……」
 合宿所を目の前にして紗由は思わず眉根を寄せた。
「部長、こんなところで合宿するんですか…」
「そうやけど?」
「いや、ここ、ただのお寺ですよね?」
 不安げな紗由の言葉にかえが続けて。
「…しかもボロ寺」
「あ、本当だ。あそこに『襤褸寺』って書いてある」
 舞菜が指差した本堂脇には、『おいでませ、襤褸寺!』と書かれた看板が立てかけられていた。
「みっ! あれ『ぼろ』って読むのかみぃ!?」
「…『らんる』とも読む」
「ははは、ずいぶんストレートな名前だね。でも、別な言い方をすれば、趣があるとも言える」
「…趣…はっ…! 確かにあの屋根の傾きは趣……」
「わかってくれるかいプリンセス。きっと室内のフローリングは歩くたびにフレキシブルな弛みで、踏みどころを間違えるとフットがフォーリングするに違いない」
「…デンジャラス」
「て、なに訳のわからないこといってるみぃ。それより瑞葉、本当にここ大丈夫かみぃ?聞いてた話とずいぶん違うみぃ」
「そうですよ。“過ごしやすい環境”に〝充実したトレーニング設備”とか言ってませんでした?」
「そうみぃ」
「そのとおりやん? ほら、竹林に囲まれた静かで過ごしやすい環境。ここまで来るのに苦労した八百八十八段の階段は昇り降りで脚力を鍛えるのに最適なトレーニング設備」
「どこが設備ですか!?」
「あ、そうや、もう少し奥に行くと川があってな、周囲は断崖絶壁~。ロッククライミングで腕力強化できるやろ。それにこの境内、みんなでダンスレッスンするのに丁度ええやん?」
「その前に草むしりが必要ですよ……」
「みんなでむしったらええやん。ふふふ」
「何ですか最後の『ふふふ』は…」
「怪しいみぃ」
「ひどいわ~、笑っただけやん!」
「…怪しいといえば」
 かえがIPPグラスを取り出し、寺の周辺を探知する。
「…怪しい気が漂っている」
「みっ! 突然何を言い出すみぃ!?」
「かえちゃん、それってもしかして」
「舞菜! その先は言わないで!」
「え? 『幽霊』って言っちゃだめ?」
「言っちゃったみぃ!」
「もう舞菜ったら……」
「でもここはお寺だろ? 幽霊の一人や二人いるんじゃないか」
「や、やめるみぃ! そんなこと言ってるとほんとに出てくるみぃ!」
 と、みいの背後に何者かの気配がした。
「みっ…」
 恐る恐る後ろを振り向くみい。すると、彼女の目の前には青白い女性の顔があった。
「う……恨めしや~~~」
「みぃいいいいいいいいいいいいいい!」
 叫びながら瑞葉に抱きつき震えるみい。
「あらあら、ごめんなさい。驚かせすぎたようですね。みなさんの話が聞こえたもので、つい悪乗りしてしまいました」
「えーと、部長、この方は……」
「ああ、うちらのお世話をしてくれるここの住職さんや」
 紗由の疑問に瑞葉が答える。
 すると、僧侶の格好をした女性は頭を下げて。
「ようこそ襤褸寺へ」
「へえ~、女性の住職さんですかー」
「珍しいですね」
「…それより、こんなボロ寺に住職がいたなんて意外」
「か、かえ、失礼よ!」
「かまいません。私も臨時でこちらに赴いたのですが……この荒れ様には驚きました。でも、中はきれいですから安心してください」
「はあ……」
「あ、そうそう。お連れさんがもう到着されて、みなさんをお待ちですよ」
 “?”となる瑞葉以外の一同。
「お、お連れさんて誰みぃ? みい達以外に誰かいるみぃ!?」
 みいが引きつった顔で背後を気にする。その横で、瑞葉が怪しげなな笑みを浮かべた。
「ふふふ……」



「遅い! 待ちくたびれた!」
「もう紫ちゃんたら、そんなに待ってないでしょー」
 住職に案内された寺の一室に入ると、そこにいたのはオルタンシアの伊津村陽花と伊津村紫だった。
「え? どうしてお二人がここに?」
「うちが呼んだんよー。特別コーチとしてなー」
「特別コーチ……」
 舞菜がつぶやくとそれに気づいた紫が力強く答える。
「そう。決勝に勝つために力をかして欲しいと頼まれてね。あたしたちは準決勝でみんなに負けたけど、だからこそ、KiRaReには、ぜひステラマリスに勝って優勝してもらいたいと思ってるんだ」
「だから、コーチの話が来た時、すっごく嬉しかったよねー」
「うん。でだ、これも負けたからこそなんだけど、KiRaReの良いところも悪いところも見えたんだよね」
「せやから、紫ちゃんと陽花ちゃんにはその〝悪いところ〟を改善するお手伝いしてもらおうと思ってるんよ」
「ちょっと待つみぃ。それならこの前みいがみんなに克服しなきゃいけない課題をプリントにして配ったみぃ。この合宿はそのための特訓じゃなかったのかみぃ?」
「そうなんやけど、チーム以外の人たちの意見も聞いた方がええかなー、と思ってなー」
「確かに…ほかのグループの評価は大切みぃ…」
「長谷川さんがみんなに指摘した課題の内容、市杵島さんに聞いたんだけど、基本的に私たちも同じようなこと思ってるんだよねー」
「そうなのかみぃ?」
「要約するとー、KiRaReって『全体的にまとまりがない』ってことでしょー?」
「そ、そうみぃ!」
「でもって、その原因は個々にある。例えば――」
 紫が腕を組んでかえをチラリと見る。
「体力がなくてみんなについていけてないやつがいたり…」
「…ガーン」
「せやなー」
「『せやなー』とか言ってるリズム感ないやつ」
「ガ、ガーン!」
「うんうん、みいが指摘したのはそういうことみぃ!」
「あと、『みぃみぃ』自己主張激しいやつとか」
「ドッカーン! みぃ!」
「とまあ、例をあげるとまだあるけど……とにかくこの合宿の目標は、KiRaReのアンバランスさを何とかする! そのための練習メニューは決して楽じゃないけど、みんなで団結して乗り切ってくれ!」
「団結――なんてホットなワードだ!」
 香澄の目が輝く。
「あはっ、本城さんは早くもやる気だね。みんなはどうだい?」
「もちろん頑張ります!」
 紗由が真面目な顔で答えると舞菜たちもつぎつぎに。
「わたしもです!」
「…できるだけ…やる」
「ゆっくりがええけど……やってみるわ~」
「ど根性みぃ!」
「よし! じゃあみんな―――さっそく練習開始だ!」



 初日の練習は川で行うことになった。一同は、持参していた水着に着替え、集合場所の河原へと集まった。
「紫さんと陽花さん、まだこないのかな?」
「そうね…」
「っていうか紗由、あんたいつまでパーカー着てるみぃ?」
「え!?」
「…そういえば、紗由がどんな水着を着ているか未チェック」
「せやねー、なんやこそこそ着替えとったもんなー。紗由ちゃん、どんなん着てるん?」
「ど、どんなのって……」
 もじもじする紗由。
「いいから早く脱ぐみぃ。そんなの着てたら動きづらくて練習の妨げになるみぃ」
「は、はい…」
 躊躇いがちにパーカーのファスナーに指をかける紗由。フリルつきビキニを着たみいの開放的な姿を見て、意を決しパーカーを脱ぐ。露になった紗由の水着は、プロポーションを強調するセクシーなビキニで、胸部分の布面積がせまかった。
「わー、紗由さん素敵!」
「そ、そうかしら……」
 恥じらいながら胸元を自分の腕で隠す紗由。
「なんや、紗由ちゃんにしては大胆な水着選んだなぁー」
「ち、違います! これは、お母さんが選んで、その、どうしても持ってけって! お父さんは少し派手だからって止めてくれたんですけど、お母さんが『アイドルは見せてなんぼでしょ!』て……」
「はあー、お母さん熱いわぁ」
「ええ…私は学校の水着で十分だと言ったんですけど……」
 肩を落とす紗由。
「そういや、スク水率多いなー」
 ワンピース水着を着た瑞葉は、舞菜とかえ、少し離れた場所で準備体操をしている香澄のスク水姿を順に眺めている。
「あれ、でもかえちゃんの水着、わたしのとちょっと違うね」
 かえの水着をまじまじと見る舞菜。
「…よく気がついた。かえの水着は旧スク…舞菜が着ている学校指定の新スクとは少し違う」
「そうなん? うちにはようわからんけど……」
「…旧スクは前身の股部分の布が下腹部と一体ではなく分かれている。下腹部の裏側で布を重ねて筒状に縫い合わせてあるため、前から見るとスカートのように見える。別名『スカート型』、またの名を『ダブルフロント』…」
「へー、詳しいんだね」
「…ついでに説明すると、エンジェルが着ているのは競泳型。水の抵抗を抑えるため生地は薄めになっている。そしてかえたちの水着より……ハイレグ…!!」
 準備体操をしている香澄に熱い視線を送るかえ。香澄の肉体にぴったりと張りついたきつめの生地が、スタイルの良さをより強調している。



「…素晴らしい肉体美」
 香澄がかえの視線に気づき、軽く腕を回しながらみんなのところへ戻って来る。
「どうかしたかい、プリンセス?」
「…エンジェルのスタイルに見惚れていた」
「ははは、プリンセスこそ、胸についている〝ひいらぎ〟というネームがよりキュートさをエクステンションさせているよ」
「…ありがとう、エンジェル…」
そのとき、拡声器のハウリング音が一同の頭上からに聞こえてきた。
「ん?」
 音のもとを探ろうと川の上流付近に目をやる香澄。一同もそれにならい上を見上げる。そこには拡声器を持った紫と、双眼鏡片手に大きく手を振っている陽花の姿があった。
『おーい、KiRaRe! 川の中に入れーー!』
 紫は拡声器を使い大声を張り上げた。



 川に入り、横一列に並んでいるKiRaRe一同。
「いいかみぃ! オルタンシアのいる場所までみんなそろってゴールみぃ!」
「沢登りってわたし初めてだよ。なんかワクワクするね」
「…甘く見ないほうがいい。オルタンシアがいる地点まで約500メートル。緩やかな渓流だけど上流へ行くに従って流れが速い。足を取られる危険性大。途中には大きな石も多い。脚力、腕力を鍛えるにはもってこい。でも、かなりの体力消耗が予想される」
「はあ~、しんどいわ~」
「部長、やる前から弱音を吐かないでください!」
「相変わらず紗由ちゃんはきびしいな~」
「とにかく! みんなで力を合わせて頑張るみぃ!」
「うん、団結力が大事ということだね」
「みぃ!」
「よし、ならボクは先行して登りやすい道を探すよ。紗由はボクも含め、みんなになにかあったときのアシストを頼む」
「はい!」
 再びハウリング音が響く。ゴール地点にいる紫と陽花を見上げる一同。
 拡声器越しに、紫が大きく息を吸った音が聞こえた。
『レディ~~~ゴーーッ!』
 紫の合図で一斉に走り出す一同。
 香澄が先頭へ躍り出る。紗由はそれを見送り、転びそうになり出遅れたかえのそばへ行く。
「大丈夫?」
「…平気。それより紗由、運動神経が良くて体力があるのは認める。でも、腕で胸元を隠しながらこの流れを進むのは危険。かえたちのアシストは不可っ、あ…!」
 石のぬめりに足を取られるかえ。
「危ない!」
 転ぶ寸前のかえの手を掴む紗由。
「…ありがとう」
「気にしないで」
 かえの視線が紗由の胸で止まる。
「…気になる」
「え?」
「…紗由の胸元の…肌面積の広さが」
 かえを助けるために胸を隠していた腕をほどいた紗由は、ビキニブラがズレ、胸のふくらみを隠しきれていない事実に顔を真っ赤にする。
「な、なに言ってるの! 危なかったのよ!」
 急いでズレたビキニブラをなおす紗由。――と、
「た、大変や! 舞菜ちゃんが流されてったー!」
「ええっ!?」
 後方を振り返ると、焦った様子で舞菜を追うみいの姿があった。
「ま、舞菜~~~っ!」
 紗由も慌ててみいの後に続く。

 舞菜救出後、一同は中間地点の瀞に差しかかっていた。
「ひゃあ~」
 深みにはまった瑞葉が悲鳴を上げ、とっさに手を伸ばした先にあったみいのビキニパンツを掴む。
「みみーっ! 瑞葉! は、放すみっ、危ないみぃー!」
「せやかて~、あ~っ!」
「みいーーっ!」
 バランスを崩す瑞葉とみい。
「部長、副会長!!」
 香澄が俊敏な動きで二人のもとへと駆ける。が、それと同時に後方から紗由に付き添われてやって来た舞菜とかえが、瑞葉と同じ深みにはまる。
「きゃ!」
「…あ」
 あわてた二人は同時に紗由のビキニブラを掴む。
「ちょっ!?」
 ブラを押さえる紗由。その時、前方からやって来た香澄が図らずも体勢を崩してしまう。
「あっ!」
 瑞葉とみいに体当たりしてしまう香澄。その勢いで3人同時に紗由のブラを掴む。
「えっ!?」
 5人の体重が紗由の体、もといブラにかかる。
「きゃああーーっ!」
 一同共々勢いよく水中に沈んで行く紗由。
 水面にブクブクと浮かんでくる気泡と共にいち早く水中から顔を出す香澄。続いてバシャバシャバシャと一同が顔を出す。
「もう! みんなでいっせいにヒドイじゃないですか!」
 紗由が涙目で言う。
「すまない紗由。ボクとしたことがまさか―――」
 香澄が紗由の姿を見て絶句する。
 それに反応するように、ほかのみんなも紗由に注目しハッとする。
「どうしたの…みんな…?」
「…紗由」
「なに…?」
「紗由さん…」
「だから…なに…?」
「はあ~、ええ眺めやー」
「え?」
「本当に済まない!」
 頭を深々と下げる香澄。
「え!? どうしたんですか、香澄さん!? や、やめてください! 私はその…みんなが無事だったらそれでいいんですから! とにかく……頭を上げてください!」
 清々しい笑顔を見せる紗由。
 と、フワリと水面になにかが浮かんでくる。
 それを見て紗由の笑顔が凍りつく。
「はっ…あ…」
 香澄が浮かんできたもの――ビキニブラを取り紗由に差し出す。
「紗由…」
 香澄の声で我に返る紗由。恐る恐る自分の胸を見る。――布がない。
「い…いやああああああ!!」
 陽が落ち始めた空に、紗由の叫び声が響き渡った。

 夕暮時。KiRaRe一同はなんとかゴールすることができた。
「みんなお疲れさまー」
「結構時間かかったな」
「す、すみません、わたしがみなさんの足を引っ張っちゃったから…」
 息を切らしながら舞菜が言う。
「…そんなことはない。かえが一番みんなに迷惑をかけた…体力不足」
 地面にへたり込んでいるかえが申し訳なさそうな顔をする。
「確かに式宮さんは流されてばかりいたし、柊さんは途中からついてこれなくなってたね」
「でも、すごく頑張ってたと思うよー」
「みぃ。舞菜とかえは努力してたみぃ! 問題は、『疲れたわー、おんぶして~』とか言ってみいを頼ってばかりの瑞葉みぃ!」
「えー、頼ってへんよ? だって実ちゃん、おんぶしてくれなかったやん」
「そういう問題じゃないみぃ!」
「まあまあいいじゃないか。こうやってみんなでゴールできたんだ」
 香澄がみいをたしなめる。
「そうだね。みんなで協力し合えてたしな」
「予想外のトラブルがあったけどねー」
 陽花がいたずらっぽく紗由にウインクする。
「はっ!?」
 顔を真っ赤にしてうつむく紗由。
「ははっ! まあ、とにかく今日の練習はこれで終了!」
「はーい」と各々返事をし、一同は寺への帰路とへついた。



 寺に戻り夕飯を食べたKiRaReとオルタンシアは、入浴をすませると、大広間に布団を敷き就寝した。

 そして深夜。
 ひとつの布団の中で手を繋ぎ眠る紫と陽花。
 規則正しい寝息をたてて眠っているKiRaRe一同。布団を半分剥いだ状態で眠っていた瑞葉が、大きくが寝返りをうつと、そのままゴロゴロ転がりみいの布団へ入り込む。
「梅…昆布茶…どうぞ…」 
「んっ…ん…いらない…みぃ…」
「遠慮せ…ん…で…」
「して…ない…みぃ」
 寝言で会話する二人。
「う…ん…いけず…」
 ポスッとみいの顔に手を置く瑞葉。
「っ…う…ん?」
 目を覚ますみい。眠気眼を擦りながら起き上がると、自分の布団で寝ている瑞葉を見る。
「瑞葉…? なんで私のお布団にいるの…?」
 そう言うとフルッと体を震わせるみい。
「うっ…お、おトイレ…行きたい……でも…」
 周りの暗さに怖気づくみい。
「一人じゃ怖い……瑞葉、瑞葉…起きて…おトイレ一緒に行こう…ねえ、瑞葉…」
 声をかけながら瑞葉の体を揺らすが、起きる気配がない。
「うう……仕方がないわね…」

 薄暗い渡り廊下の床がみいの歩みと共にみしみし音をたてる。
「く…暗い…」
 中庭の奥にある竹林が風で揺れ、不気味に騒ついている。
「こ、ここ怖い……おトイレどこ…」



 暗い空間で目を凝らすみい。すると、前方にある竹林の奥で青白い光が見えた。
「ひっ!」
 光の中に、十二単を着た女性の姿が浮かび上がっている。
「きゃああっ!」
 一歩後退りするみい。
 その瞬間、女性がくるりと振り向き、歪な形相でほほ笑んだ。
「で、でででででででっ出たみーーーーっ!!」
 一目散に駆けだすみい。
 袖をゆっくり振り、みいを見送る女性。

 ――そして女性のすぐ側には、静かに佇む、かえの姿があった…。