15th stage!

「珊瑚、再登場する」


扉イラスト:和泉つばす 挿絵イラスト:稀星学園高尾校美術部




 プリズムステージ、東京都大会予選決勝の日。
 会場のステージでは、朝からリハーサルが行われていた。
「よし、もう一度おさらいしよう。碧音、珊瑚、位置に戻って」
「はーい」
 碧音は返事をして、珊瑚と共に最初のポジションへと移動する。
 瑠夏の合図で曲が流れだすと、碧音、珊瑚、瑠夏の三人は歌い、踊り始めた。
 取材に来ている記者たちが囁き合う。
「やっぱりすごいな、ステラマリスは…」
「ああ。リハーサルからオーラが違う…」
「特に式宮碧音。今日は特別動きがいい」
「調子がいいんだな…。さすが優勝候補のエースだ…」
 彼らの言う通り、碧音はいつもより一層輝きを放っていた。
 曲が終わり、ステラマリスの三人が息をつく。
「碧音、まだリハーサルなのに本気を出し過ぎじゃないか?」
「え? そーお?」
「まだ東京都大会だ。そんなに気張らなくてもいいと思うんだが」
「うふふ。ダメよ、瑠夏。そんなこと言っちゃ。みんな一生懸命なのよ? 私だって本気でいかなきゃ」
「そうか…。それは悪かった」
 二人の会話に珊瑚が割って入ってくる。
「ふんっ、瑠夏ったら馬鹿じゃないの? 碧音お姉さまはいつだって誰よりもアイドルなのよ!」
「そういうお前は少し乱れていたぞ。気を付けろ」
「うるっさいわね、わかってるわよ」
 瑠夏に毒づいたあと、にこっと笑って見せる珊瑚。
「碧音お姉さま、珊瑚、今日もお姉さまのために頑張ります!」
「ありがとう珊瑚ちゃん。今日もかわいいわね。うふふ」
「ああ、お姉さま。お姉さまこそ、いつにも増して素敵です!」
「そーお? …あっ、もしかしたら…」
「なんですか?」
「私、まーちゃんに会えるから楽しみで仕方ないのかもね! 今日、まーちゃんたちも出るんでしょ? ふふふっ」
「お姉さま……」
「ふふふ、早くまーちゃんに会いたいなあ~」
 歌うように軽やかにつぶやきながら、碧音がタオルを取りに鞄のところへと行った。
 ぽつんと立ちつくす珊瑚。
「まーちゃんって……」
「妹のことだな」
「わかってるわよ!」
「むくれるな…。あいつが妹のことが好きなのは、いつものことだろう…」
「わかってるけど…」
「言っておくが、本番ではその顔は見せないように。いいな?」
「……」
 珊瑚は返事をせずにダンスのポジションへと戻って行く。
 瑠夏が珊瑚を見つめる中、ステラマリスのリハーサルが再開した。



 会場へと急ぐ道の中、紗由はいそいそと携帯画面に文字を打ち込んでいく。

月坂紗由:すみません! もうすぐ着きます!
。.:*・゚♡みい♡゚・*:.。:舞菜はいるみぃ?
月坂紗由:います!
市杵島本舗:みんなー。もう集合時間になるで~<
kasmin:到着
闇黒姫:同じく
市杵島本舗:あとは紗由ちゃんと舞菜ちゃんだけやで~

 携帯の画面を閉じながら紗由は会場のロビーに入ると、控室に向かう廊下の前で舞菜とともに瑞葉たちに合流した。
「お待たせしました!」
「おはようございます、みなさん」
 紗由と舞菜は軽く頭を下げながら挨拶した。
 みいが二人に詰め寄って来る。
「遅いみぃぃぃぃぃぃ!!」
「は~、よかったよかった。無事間におうてくれたな~。また舞菜ちゃんか紗由ちゃんのどっちかに何かあったんかと思ったわ~」
「すみません。電車を一本乗り遅れてしまって」
「そんなこともあるかもしれないから、10本分は早く乗るのが常識みぃ!」
「違うんです、わたしがもたもたしていたから…」
「そんなこともあるかもしれないから、普段から身体を鍛えておくのが常識みぃ!」
「はいはい。もうええって実ちゃん。間におうたんやし」
「決勝戦の日にたるんでるみぃ!」
「でも、二人ともいいウォーミングアップになったんじゃないかい?」
「汗だくにはなっちゃいましたけどね」
 ハンカチで汗をぬぐいながら紗由が苦笑いで言う。
「衣装を着てなくてよかったみぃ!」
「ほな、受付はもう済ませてあるから、控室行こか」
 瑞葉を先頭に控室へと向かうKiRaReの6人。
 会場内はそこかしこにプレスの腕章を付けた大人たちがたくさんいた。
「…すごい記者の数」
「決勝戦らしい賑わいだね」
 一般客入場の待機列にもたくさんの人が並んでいた。
 ほとんどはステラマリスの応援グッズを身に着けていたが、舞菜がふと外を見ると、数人の男女が舞菜に向かって手を振った。
「もしかして、わたしたちに振ってくれてるのかな…?」
「そうよきっと! お返ししましょ!」
「するみぃ!」
 舞菜と紗由とみいの三人が手を振り返すと、客たちが顔をほころばせる。
「うちらのことを応援してくれる人も少しはおるんやなあ」
「…ステラマリスだけだと思ってた」
「嬉しいね。身が引き締まるよ」
 6人が圧倒されていると、壁際にいた何人かの記者がKiRaReのもとへと駆けてきた。
「高尾校のみなさんですよね! ちょっと取材いいですか?」
「えっ、わ、わたしたちですか?」
 マイクを向けられた舞菜があたふたと戸惑いを見せる。
 そこに、ずずいとみいが前に出た。
「ここは、このみいに任せておきなさいみぃ!」
「あ、はい」
 舞菜が一歩下がると、記者がマイクをみいに向ける。
「えー、みなさんの今日の意気込みをお願いします」
「みみっ! 一気飲みみぃ?」
「え? いや、意気込みを…」
「みっ!? 粋なコメみぃ?」
「えーと…」
 見守っていた瑞葉たちが真顔になっていく。
「なんか、変やで?」
「みい先輩、ぜんぜん任せられません…」
「でも、おもろいし、ほっておこか」
「そうですね」
 みいを残して瑞葉たちは控室へと向かっていった。

 一同が控室に着いてしばらくすると、みいが泣きながら飛び込んできた。
「うわあああん! 置いてくなんてひどいみぃ!」
「あっ、実ちゃん。うちらのステージリハーサルまであと30分やで」
「そんな悠長に言わないでほしいみぃ! 焦るみぃ!」
「まあ、衣装なんかはリハーサルが終わってから着替えればええから。リラーックス、リラーックス」
「瑞葉はリラックスしすぎみぃ!」
 バタバタと慌ててみいがジャージに着替える。
 控室の中には小さなモニターが置いてあり、そこにはこの大会のプロモーションビデオが流れていた。
 前大会優勝のステラマリスも大々的に映っていて、舞菜はモニターの中の碧音を見ると、緊張の面持ちで一つ息を呑んだ。
「お姉ちゃん……」
 舞菜がきゅっと胸元で手を握る。
 モニターの中の碧音は舞菜に向かって笑顔を向けていた。
「あ…あの…紗由さん。わたし、ちょっと、飲み物買ってこようかなって…」
「え? 飲み物ならそこにいろいろ置いてあるけど」
「あ……その……」
 紗由と目を合わせようとしないまま、舞菜は落ち着きない様子でそわそわしている。
 そんな舞菜の様子を見て、紗由は優しく微笑んだ。
「わかったわ、行ってらっしゃい。リハーサルまでには戻って来てね」
「う、うん。ありがとう」
 紗由が目で追う中、舞菜はそそくさと控室を出て行った。
 一連のやり取りを見ていたかえが紗由の傍に来る。
「…いいの、行かせても。また逃げ出したりするんじゃ…」
「大丈夫よ。舞菜はもう逃げたりなんかしない。私、信じてるから」



 自販機の前で舞菜がベンチに座る。
 小さくため息をつくと、舞菜はぽつりぽつりとつぶやき、肩を抱えた。
「はあ…。あの部屋、なんか、落ち着かないんだもん…。お姉ちゃん……、あの時以来だよね、会うの……。やっぱり、緊張しちゃうな……。わたし、ほんとにちゃんと踊れるかな……」
 近くにあった壁時計を見るとステージリハーサルまではもう少しだけ時間があった。
「でも…あんまり長いこと出てたらみんな心配しちゃうよね。早く帰らないと…」
 そう言って舞菜が立ちあがると、同時に向うから来た人影にぶつかった。
「あっ、ごめんなさい!」
「いったー……! もう、このサングラス、ぜんぜん前見えないんだから……!」
 舞菜の目の前にいる女の子は、大きなサングラスに大きなマスクをつけ、大きな帽子をかぶっていた。
「ごめんねー、ぶつかっちゃって。悪いのはこのサングラスだから、許してほしいな~」
「え? ああ、はあ…」
 舞菜が呆然として見つめていると女の子はおおげさに手を口元にあてて困惑してみせた。
「やあだ、なあに? 私の事が気になるの? あーっ、もしかしてバレちゃったのかなー? やっぱりこれくらいの変装じゃバレちゃうかー。でもごめんね? 今日はこのあと大事な大会だから…写真はまた今度にしてほしいなっ。サインなら特別サービスでしてあげるから☆」
「……えっ。えっ……サイン?」
「うんっ」
「あ、いえ、そんなつもりじゃ……」
「遠慮しなくてもいいのにぃ~」
「あ、でも……」
「一枚だけなら特別に書いてあげるからあ!」
 そう言って女の子はおもむろにサングラスを取った。そして、舞菜の顔を見てハッとする。
「げっ! あんたは…! 式宮舞菜!」
「えっ」
「な、なんで、こんなところで……!」
「えっ? えっ?」
 妙な沈黙が続く。
「式宮舞菜よね?」
「はい。そうですけど……」
「……あたしが誰だかわかるでしょ?」
「え…? その……わかりません。すみません」
 女の子が帽子を脱ぐ。
「これでも?」
「んー…と、…はい…」
 女の子がマスクを取る。
「これでも?」
「はい…」
 しびれを切らしたのか、女の子がジャージの背中を見せる。そこに書かれた所属チームの名前を舞菜は一文字ずつ声に出していく。
「ス…テ…ラ…マ……あっ、ステラマリスの…!?」
「そうよ! ステラマリスの…!」
「あっ…! ひ……左側の……?」
「そう! 左側の…!」
「……えっと……左側の………………」
「ちょっと! 名前は!? 出てこないの!?」
「す、すみません…!」
 困惑したまま舞菜は頭を下げた。
「失礼な子ね! あたしの名前を覚えてないなんて…! あたしはねえ…!」
「「岬珊瑚!」」
 えっ、と舞菜が振り返ると、紗由とかえが立っていた。



「紗由さん。どうして…?」
「戻ってくるのが遅いから、心配になっちゃって…」
「…結局。そういうことになった」
「それより、岬珊瑚! 舞菜に変なことしてないでしょうね!?」
 紗由とかえは舞菜をかばうようにして珊瑚に向かって立った。
 珊瑚も負けじと突っかかって来る。
「なにそれ! こっちがされてたわよ! 珊瑚のことを覚えてないなんて、よくも失礼なリアクションをしてくれたわね! こんな子が碧音お姉さまの妹だなんて、信じられない!」
「す、すみません。本当に覚えてなかったから…」
 舞菜の追い打ちに珊瑚が「きーっ!」と声をあげる。
「舞菜。こいつは、私とかえの因縁の相手。岬珊瑚」
「…ステラマリスの下っ端」
「誰が下っ端よ! 誰が! ふん。あんたたちこそ下っ端でしょうが。こっちはあんたたちのことなんかすっかり、微塵も欠片が残ってないくらい忘れたけどね!」
 紗由がムカッと顔を歪める。
「こっちだってあんたのことなんか、名前も顔も忘れたわよ!」
「さっき呼んでたじゃん! 珊瑚のこと、めちゃくちゃ覚えてたじゃん!」
「…くっ。なぜ脳から抹消しなかったのか。悔やんでも悔やみきれない…」
「ふん! まあいいわ。ここで会ったが100年目。この前の決着、つけてあげようじゃないの!」
 不敵な笑みを浮かべて珊瑚が言った。紗由も応戦する。
「前みたいにいくとは思わないことね!」
「ふん! ここは正々堂々と…じゃんけんで勝負よ!」
「ふん! 臨むところよ!」
 そう言って紗由は臨戦態勢で珊瑚に詰め寄った。
「えっ、じゃんけん…?」
 舞菜がきょとんとする。



 紗由と珊瑚は両腕をクロスさせ、掌をつなぐと器用にひねって顔の前で構える。
「見えるわ…。あんたの出す手が…」
「ふん。珊瑚にも見えるわよ。わかりやすい手ね…」
「ふふ…。今、見返してやったわ」
「ふんっ。珊瑚だって見返してやったわ!」
「おあいにく様。さらに見返してあげたわよ!」
「ふふんっ! 珊瑚には三手先まで見えるわよ!」
「それなら私は十手先まで見てやるわ!」
「はんっ! 珊瑚には三日後に出す手も見えるわよ!」
「私には百日後に出す手も見える!」



   ぐぎぎぎぎぎぎ……! 
 紗由と珊瑚は両腕をクロスさせたまま睨みあっていた。
「…紗由。IPPグラスも使って」
「ちょっと! 今は珊瑚とこいつが戦ってんのよ! 機械文明はお呼びじゃないの!」
「そうよ、かえ。今は真剣勝負のとき…。自分の力を信じて戦うわ!」
「…わかった」
(いったい何が始まってるんだろう…)
 舞菜は一人状況についていけず、静かにその場で見守っていた。
「いくわよ!」
「「じゃーーーんーーーけーーーんーーー」」
「「ぽんっ!」」
 と、二人が出した手はグー。
「「でやあっ!」」
 と、二人が出した手はパー。
「「とりゃあ!」」
 と、二人が出した手はチョキ。
 二人は連続で十回もの回数をあいこで終えた。
「ふん! この珊瑚についてくるなんて、生意気ね! 山のふもとのアイドルもどきが!」
「なんだか頭が冴えちゃって冴えちゃって仕方ないの。都会と違って、きれいな空気を毎日吸ってるからかしらね!」
 ぎりぎりぎり…と睨みあう珊瑚と紗由。
「仕方ないわね。この技だけは使いたくなかったんだけど…。こてんぱんにあんたを倒すために、やってやろうじゃないの!」
 バッ! と珊瑚が両足を肩幅に広げる。
「田舎のアイドルごっこさんたちに、本校伝統の伝説の試練、スクワット1000回が達成できるかしら!?」
「ふーん! たった1000回でいいわけ? 毎日山登ってる私たちを舐めないでよね! こっちの試練は10000回よ!」
「たったの10倍増しでいいわけ!? ちっぽけな見栄ね!」
「見栄を張ることになるのはどちらかしらね!?」
 バチバチバチバチ…! 
「…見える、火花が。紗由と珊瑚の間に…」
「ごめん、かえちゃん。わたしには何も……」
 舞菜がかえを見ると、かえはいつの間にかIPPグラスを装着していた。
「…あっ、今、二人の間に一際大きな火花が…!」
「えっ、どこどこ!?」
「「よーい! どん!」」
 紗由と珊瑚の二人がスクワットを始めた。
「1、2、3、4、……」
 しかし、すぐに二人は息が荒れ始めた。
「ちょっと、息が荒れてきたんじゃないの!?」
「そっちこそ! 珊瑚の回数より1回も少ないじゃないの!」
「あら、おあいにく様! 今抜いてやったわよ!」
 はあ、はあ、はあ、はあ、……。
 二人は足ががくがくしながらもスクワットを続けていく。
「紗、紗由さん! 本番前にそんな運動しなくていいよ!」
「いいのよ、舞菜、これくらい! 準備運動に、ちょうど、いいわ!」
「減らず、口も、そこまで、よ! 珊瑚の、ミラクル脚力、見せて、や、る!」
 さらに紗由と珊瑚はスクワットを続けた。
 やがて限界に達し、二人は同時に廊下に倒れ込む。
「紗由さん!」
 舞菜が思わず声をあげた。



 荒い息でなんとか身体を起こす紗由と珊瑚。
「くそっ、くやしい……。この珊瑚が、こんな勝負に…引き分けるなんて……。はあ、はあ、はあ、はあ……。あんた、なんで、こんなになってまで、あんなダメダメの式宮舞菜なんか、かばうわけ!?」
「はあ、はあ、はあ、はあ…。そんなの、わかり切ったこと! 舞菜のことが大切だからよ! 舞菜は大事な仲間なの! 私にとっても、KiRaReにとっても、仲間はとても大切な存在なの! だから舞菜を傷つける奴は許さない。仲間を守るためなら、なんだってするわ!」
「紗由さん……」
「んもーっ! 聞き飽きたああ! 誰もかれも、舞菜・舞菜・舞菜・舞菜あ…!!!!!」
 珊瑚が感情を爆発させる。
「なによ! こんなダメダメの何がいいのよ! 舞菜より珊瑚のが上なのに! 何がそんなにいいって言うのよ!!」
 珊瑚の悲痛な叫びに一同が珊瑚を見る。
「碧音お姉さまも、いっっっっつも、まーちゃんまーちゃんまーちゃんまーちゃん! 珊瑚もこんなに碧音お姉さまを好きなのに! こいつは碧音お姉さまの前から逃げたのに、どうしてこんなに愛されてるわけ!?」
「珊瑚……さん……」
 舞菜が珊瑚に声をかけようとする。
 その動きを制するように、珊瑚が舞菜を睨みつけた。
「珊瑚にはわからない! どうして珊瑚より、こんなダメダメな子が愛されてるのか! 珊瑚の方が、歌も踊りも上なのに!」
 珊瑚の声が廊下に響き渡る。
 その悲痛な声はしばらく舞菜の耳から消えなかった。
 静まりかえってしばらくすると、舞菜たちの控室の反対側から瑠夏が真っすぐ歩いてきた。
「何を騒いでいる、珊瑚」
「瑠夏…」
「一条、さん…」
 舞菜が小声で呼びかけると、瑠夏は舞菜たちを一瞥した後、珊瑚の腕を掴んだ。
「リハーサルが終わってから姿を見かけないと思ったら…こんなところで何をしている」
「あんたには関係ないでしょ!」
 珊瑚が瑠夏を睨みつける。
「とにかく戻るぞ」
 瑠夏が珊瑚の腕を引っ張り上げた。
「あ、あの…!」
 行こうとした瑠夏と珊瑚に舞菜が呼びかける。
「一条さん、あの…」
「この続きはステージの上でだ。式宮妹」
「あ……」
 パタパタと足音がして、紗由たちの背後から瑞葉、香澄、みいの三人も駆けつけた。
「ちょっと、舞菜ちゃん。紗由ちゃん、かえちゃんも。もうすぐうちらのリハーサルの時間やで。…って、何をしてんの…?」
 両校のメンバーが対峙する。
「申し訳ない。うちの一年が少し迷惑をかけてしまったみたいだ」
「……あっちだって、ふっかけてきたもん」
 珊瑚がぶすくれてつぶやく。
「黙ってろ。…高尾校の皆にはすまなかったな。では」
 行こうとする瑠夏と珊瑚。
 しかし、廊下の角を曲がろうとすると、ふいに足を止めた。
 ふわり…と、どこからともなくやわらかな風が吹いた。
「ねえ、もしかして、そこにいるの? まーちゃん」
 その声に一同が一点を見つめる。舞菜の名前を呼びながら角を曲がって現われたのは、碧音だった。
「あっ、やっぱりまーちゃんだ!」
「お姉ちゃん…!」
 碧音の登場に、さらに両校の間に緊張が走る。
 しかし、そんなこともお構いなしに、碧音は舞菜に抱き着いた。
「やったあ。会えたあ! すっごく会いたかったよ、まーちゃん!」