18th stage!

「瑞葉、夢を告白する」





 特別枠に選出され、プリズムステージへ再出発をすることになった謡舞踊部の6人。
 ダンスも歌も基礎から見直そうということになり、練習を重ねていた。
「…うう…もう…しんどい…」
 ステップの基礎練習を繰り返していたかえがその場にへたり込む。
「じゃあちょっと休憩にしましょうか」
 紗由がそう言うと、舞菜、かえ、香澄の三人も一息ついた。
「基礎練習って地味だけど辛いなあ…」
「でも、今のうちに基本を見直しておけば、あとが楽になるわよ」
「紗由の言う通りだよ。全国大会へ行けば、ステラマリスと同じくらいすごいチームがたくさん出てくる。他のチームと互角に戦うにはレベルアップが必要だ」
「すごいチームが…そんなにたくさん…」
「…強豪校が集まってくる…。なんて胸熱…」
「私も少しは知ってるわ。特に激戦区なのは、九州の福岡、東海の名古屋、あと、沖縄や広島も私設スクールが熱心で、そこの生徒たちがプリズムステージに出てくるのよね」
「ボクも以前、オーディションで会ったことがあるけれど、それぞれ特色があってみんなすごいチームだったよ」
「…素晴らしい。早く大会見たい。サインはもらえるかな…」
「かえも出る側よ」
「…そうだった」
「わ、わたし……そんなすごい人たちと戦えるのかなあ……。お姉ちゃんたちにもまだまだ追いつけていないのに……」
「だ、か、ら、今こうやって基礎から見直してるんでしょ? まだ時間はあるから、いっぱい練習してレベルアップしましょ!」
「うん…。そうだね、紗由さん。頑張るよ」
「それにしても……」
 紗由が部室を見渡す。
「どうして部長とみい先輩は練習に参加しないのかしら」
「…ほんとに」
「今日もちょっと顔を出したら慌てて出て行っちゃったよね」
「まったく…。『夢はでっかく全国優勝だみぃ!』って言ってたのはみい先輩なのに」
「部長もだよ。ボクたちに『プリズムステージにまた出られるで~』って嬉しそうに言っていたのに…」
「東京予選で準決勝まで残ったおかげで実績を残したって認められて、やっと正式な部にもなれて、あとは頑張るだけなのに」
「…わかった。…部活ばかりやってたせいで進級が危うく補習なのかも…。身に覚えがありすぎる…」
「部長はともかく、みい先輩は生徒会も入ってるし、勉強はそこそこできるって言ってたような気がするから大丈夫でしょ。部長はともかく」
「…じゃあ、部長のためにみい先輩が勉強のコーチ中…」
「そっかー。部長さん、みい先輩に習ってばっかりだね」
「部長ってば意外とやることやってないからね~。しっかりしてるようで抜けてて、抜けてるようで抜けてて。私が部長の勉強も見張っておくべきだったかも…」
「…後悔、先に立たず」
「きみたちの部長のイメージって……」
 好き勝手言う紗由、かえ、舞菜の三人に苦笑をする香澄。
「まあでも、今日はもう仕方ないから、明日こそちゃんと練習に参加してもらいましょ」
 しかし、次の日――。
「えっ!? また今日も帰っちゃうんですか!?」
「うん。ちょっとやることがあってな~」
 練習に参加しないと言う瑞葉とみいに紗由が問い詰めると、瑞葉は答えにくそうにしながら笑い返してきた。
「どうしてですか。全国大会に出るために基礎から見直さなきゃって時なんですよ。みい先輩ならともかく、部長はもっともっとレベルアップしなきゃいけないんです。自覚あるんですか?」
「それは、もちろんあるんやけどな……」
「ごめんね紗由。あとはよろしくみぃ」
 紗由に何か返す間も与えずに、瑞葉とみいはそそくさと部室を出て行ってしまった。
 残された舞菜たちが呆然と見送っていると、紗由が口を開いた。
「もう我慢できない! いったいどこで何をしてるのか、見に行くわよ舞菜!」
「えっ……ええっ!?」
「だってこのままじゃレベルアップできないじゃない! 今がとっても大事なのよ!」
「うーん、でも、部長さんたちにもやることが――」
「今が、とっても、大事、なのよ!」
「うん、わかった。追いかけよう!」
 紗由の厳しい眼に舞菜が答え直した。
「…尾行なら任せて」
「ボクも行こう」
「ありがとう、かえ、香澄さん。今日こそ突き止めてやるわよ。待ってなさい、部長!」



 紗由たち4人は瑞葉とみいの2人を追って校内を歩いていく。
 すると、運動場から気合いの入った掛け声が聞こえてきた。
「稀星――っ! ファイッ! オー! ファイッ! オー! ファイッ! オー! イェアアア!」
「わあ~。見て見て。チア部の人たちが練習してるよ。すごいなあ~」
「…ほんとに。よくあんな高いところまで飛ばされて平気で笑ってられる…」
「プリンセスもやる気になれば軽々と飛ばせるよ? やってあげようか?」
「…えっ、ま、待って」
「遠慮はいらないよ?」
「…飛ばしてもらいたくて言ったわけじゃあ…」
「ふふ、香澄さんがかえのことを飛ばしてみたいだけよね」
「かわいいだろうなあって思ってね」
「…これは、覚悟を決めるべき流れ…?」
 かえがもう一度チア部の練習を見る。すると、何かに気づいて、
「…あれ? 紗由、あの人って…」
「えっ? ……嘘。あれ、部長じゃない!?」
「えっ、なになに?」
「あの、上でぽんぽん飛ばされてるの、部長なのよ!」
 紗由に言われて舞菜と香澄も見る。紗由たちの言う通り、飛ばされているのは、髪をひとつに縛った瑞葉だった。
「ほ、ほんとだ……。なんで部長さんが…?」
「わからない……」
 舞菜たちが見ていると、瑞葉は落下して受け止められ、地面に降りてチアの部員たちの前に立った。
 チア部員たちが瑞葉の前で整列する。
「うん。なかなかよくなったなあ。この調子や」
「はいっ! ありがとうございます!」
「ええか、いつでも忘れたらあかんで? チアは笑顔が命なんや。どんなに辛くても笑顔だけは絶やしたらあかんで」
「はいっ!」
「ほな、うちは次行かなあかんから。また見に来るしな。練習しとくんやで~」
 そう言うと瑞葉はその場を去っていった。
 一部始終を物陰で見ていた舞菜たち。
「今のは何だったんだろう…?」
「すごく慣れている感じだったね…」
「…いつのまに」
「とにかく追いましょう! 考えるのはそのあとよ!」
 紗由の一声で舞菜たちは瑞葉のあとを追っていった。
 
 次に瑞葉が訪れたのは体育館だった。
 キュッ、キュッ、とシューズの音が響く中、瑞葉がピピーっと笛を吹く。
「そこ! 今、ボール持ったまま走ってたで! トラベリングや!」
「すいません!」
「もう一回やり直しや!」
「はいっ!」
 ダムダムダムダム……とバスケ部員たちが体育館内をドリブルしていく。
「今や! そこや! ノールックパスや!」
 瑞葉の指示で、メンバーが仲間を見ずにパスボールを投げた。
 ゴールの下で待つメンバーがボールを受け取ると、そのままゴールへと投げられた。
「ナイスパス! ナイスゴールや!」
「はいっ! ありがとうございます、市杵島コーチ!」
 そしてメンバーたちは練習を続けて行った。
 一連のバスケ部と瑞葉のやりとりを体育館入り口の扉の陰から舞菜たちが見ていた。
「今度はバスケ部……」
 あんぐりと口を開けて見ている紗由。
「おー、すごい。ダンクシュートができる子がいるよ」
「…バスケは苦手。ボールを持つとみんなに囲まれる…」
「プリンセスは小柄だからな~」
「かえちゃんの気持ち、すっごくわかる。わたしも同じ経験いっぱいしたよー。あきらめる前に、もう終了してるんだよね…」
「…うんうん」
「って、そこ! 何をのんびりバスケ談義してるの! 今はバスケのことより部長でしょ!」
「ご、ごめんなさい」



 紗由の声で舞菜たちは再び瑞葉を視線で追った。
 チア部のときと同様に、瑞葉はバスケ部員たちに指示をすると、またその場を去って行った。

 そして瑞葉は、テニス部に行っては、
「もっと熱くなれよ!! きみにならできる!!」
 と、暑苦しいほど熱くなりながら叫び――。

 ソフトボール部に行っては、
「勝ちに不思議の勝ちあり……負けに不思議の負けなしや……」
 と、ぼやき――。

 水泳部に行っては、
「先輩を手ぶらで帰すわけにはいかへんで!」
 と、喝を入れた。

 瑞葉のあとを追っていた紗由たちが花壇のそばにへなへなと座り込む。
「いったい……どういうことなの……。テニス部にソフトボール部に、水泳部まで…!」
「ねえ~。びっくりだよ。部長さん、あんなに部活の掛け持ちしてたんだねえ」
「そんなわけないでしょ! ずっと私たちと練習してきてたじゃない」
「そ、そうだね、あはは、ごめん。でも、きっと部長さんなりの何か考えがあるんだよ」
「考えって、どんな?」
「それはわかんないけど……」
「部長…。もしかして、ボクたちともう踊るつもりはないんじゃないかな…」
「「「ええっ」」」
 舞菜、かえ、紗由が同時に声をあげる。
「そ、そんなまさか! プリズムステージはまだあるんですよ?」
「…出ないつもりって…どういうこと、エンジェル」
「だって、部長にとっては謡舞踊部の存続ができればそれでよかったはずだ。存続が決まった今、部長がプリズムステージに出る理由はなくなったと思うんだけど」
「そんな……」
「…でも、一理ある」
「そうだけど……」
 紗由は黙りこくってしまった。
 しばしの間の後、舞菜が紗由の肩をつつく。
「ねえ、紗由さん。部長さんがまた別のところに行くみたいだよ。追いかけないと」
「え……」
 と、顔をあげる紗由。見ると、瑞葉が巫女服になって校舎と校舎の間を歩いているところだった。
「今度はいったいどこに行くんだろ……」
「…それは確かめないとわからない」
「どうする、紗由」
「うん……。わかったわ、行きましょう……」
 力なく返事をすると、紗由はゆっくりと立ちあがった。



 紗由たちが瑞葉を追いかけると、瑞葉は演劇部の部室に入って行った。
 そこで瑞葉は部員たちに演技指導をし、自らも巫女役を演じて練習に参加していた。
 その姿は瑞葉の本来の姿で、美しく、紗由たちはみとれてしまった。
「うう……部長さん……素敵です……」
「これは……決定的な何かを見せられた気分だよ……」
「…部長の本領…それは、舞…」
「……」
 紗由は言葉なく、その場で俯いた。
「部長さん、本当に、もうわたしたちとはアイドルを目指さないのかもしれないね…」
「…うん…。このまま舞に戻るのかも」
「プリズムステージには5人でも出られるのは確かだ。だから、あとはボクたちに任せようとしているのかも…」
「どうする、紗由さん。部長さんのところに、行く…?」
 紗由は俯いたまま首を横に振った。
「もういいわ…。部長の気持ちは、もう、わかったし…。それに、もともと、強引に部長にアイドルを目指させたのは、私だもの。そんな私に、部長が出ないのを止める資格はない…」
「紗由さん…」
 紗由はそっとその場を離れると、遠くに見える、校門のそばの桜の木を見つめた。
「部長の舞、久しぶりに見たけど、やっぱりきれいだなあ……。部長と初めて会ったとき、入学式の日の……桜の木の下で踊る部長を思い出しちゃった……」
 桜を見つめながら紗由は話し続ける。
 思い出していたのは、今年の四月の初め、初めて高尾校に訪れた紗由が、桜の木の下で瑞葉と出会った瞬間のことだった。
 紗由は舞菜が転校してくる前のことを話し始める。
「前は謡舞踊部にもたくさん部員がいたらしいの。でも、進級で先輩たちが引退してしまって、部長だけが部員として残ったんだって」
「他に部員は入ってこなかったの?」
「そうみたい…。それで、今年の春、部長が勧誘活動をしているとき、私が言ったの」
 紗由は、話しながら、瑞葉と出会ったときの光景を懐かしんでいく。
 桜の木の下で、くるりくるりと舞う瑞葉の姿。
 アイドル活動をあきらめきれなかった紗由と、謡舞踊部の存続のために仲間が欲しい瑞葉。2人の目があったとき、紗由は自然と瑞葉の手を握っていた。
「それで、『私とアイドル目指しませんか!?』……って言ったの。いきなり」
「…大胆」
「いろいろ割愛したね」
「でも、部長の舞って本当にきれいで、すごくきれいで、私には無いものだった。だから、この人と一緒に踊れたら……って思ったの」
「それで、紗由さんは謡舞踊部に入ったんだね」
「うん。部長も、『ようわからんけど、ええでー』ってOKしてくれて……。でもあれって、やっぱり、アイドルを目指したくて受け入れてくれたんじゃなくて、部の存続のためだったのよね……」
「部長さんにとっては謡舞踊部は大事な部だもんね…」
「香澄さんの言う通り、部が認められた今、プリズムステージに出る気がなくなって、練習に来なくなったのも納得だわ…」
「紗由さん…」
「もういいわ。もう、部長を自由にしてあげなきゃね……」
 そう言って紗由は寂しそうに微笑んだ。



「はあ~。疲れたわ~。へとへとやあ~」
「お疲れ様―」
 夕方になり、瑞葉が生徒会室へと入ってきた。事務仕事をしている実が顔をあげて迎える。
「いやあ、みんな頑張っててすごいわあ。どの部も指示通り練習してくれて」
「じゃあ、次の試合はみんな実績残して帰って来てくれるわね」
「それはわからんけどなー。でもやることはやったかなあ。楽しみやなあ」
「あんたもすごいわよ、瑞葉。こんなに部活見て回ってくるなんて。体力あるじゃない」
「みんなの一生懸命な顔見てたら、うちも頑張らなな~って思えてきて。いろんな勉強させてもらったわ。テニスのあの人は、えらい熱い指導しはるみたいやし、逆に野球のあの人はぼやくことが作戦とか…。いやあ、運動部っていろいろあるんやなあ。こんな機会がなかったら、知らんことばっかりやったわあ」
「楽しそうでなによりだわ。でも、いつまでもこんなことしてていいの? あの子たちのところにそろそろ行った方がいいんじゃ……」
「ええのええの。だって実ちゃん一人に任せられへんやろ? うちかて生徒会に貢献せな」
「私は助かるけど……あの子たちがあんたのことを心配してるんじゃない?」
「うーん、そうやなあ。でもなあ……紗由ちゃんたちはうちがおらんでも大丈夫やし」
「またそんなこと言って…。紗由が泣くわよ」
「泣かへんよお。紗由ちゃんは強いもん。うちがいいひんかっても、みんなのこと引っ張ってってくれるし。めっちゃ安心やわ~」
「そうかしらねえ…。あたしにはそんな風には思えないんだけど…。だって、ほら」
 と、実が生徒会室の扉を開けた。するとそこに扉に耳を傾けていた舞菜、香澄、かえ、そして紗由の4人が立っていた。
「こんなに気にして来てるわよ」
 実に言われて舞菜たちが慌ててそっぽを向く。
「…ひゅーふーぷふー」
「誤魔化そうとして口笛を吹こうとしない。というか、吹けない口笛を吹かんでもよろしい」
「…バレてしまった…」
「あらあら。みんなお揃いでー。どうしたん」
 ばつが悪そうにそろそろと中に入ってくる舞菜たち。
「あ、あの、部長さん……わたしたち部長さんに、一言だけ言いに来て…」
「え、一言って?」
 瑞葉が聞き返す。
 舞菜が香澄、かえ、紗由を集めてこそこそと話しだす。
「ど、どうしよう。誰が言うんですか…?」
「それはやっぱり紗由だろう」
「…うん。紗由しかいない」
 舞菜たちに見つめられて、紗由はひとつ頷いた。
 そして、瑞葉の前まで歩いて行く紗由。
「あの…部長…」
「うん。どうしたん、紗由ちゃん」
 紗由は真剣な顔で瑞葉を見つめた後、おもむろに頭を下げた。
「今まで、すみませんでした!」
「え?」
「私、部長のこと、ずっと拘束してました…。本当は舞をやりたいのに、無理やりアイドルを目指す部活に変えてしまって…。でも、これからは私たちだけでプリズムステージを目指します。だから、部長は舞を……舞を……」
 そこまで言って紗由は目に涙がじわじわ浮かんできた。
「紗由ちゃん……」
「うっ、すみません……泣くつもりなんか、なかったんですけど……」
 ぐすぐすと紗由が涙をぬぐう。しかし、ぬぐってもぬぐっても涙は溢れてきた。
 紗由の様子を見て、援護をしようと舞菜、香澄、かえも瑞葉の前に来る。
「部長さん、本当に今までありがとうございました!」
「本当は6人でやりたいけど、部長がそういう気持ちだったなら、ボクはあなたを舞の世界へと帰そうと思うよ」
「…かえ、もっと頑張るから。部長の分ももっともっと頑張るから。だから安心して」
 紗由が顔をあげて瑞葉を見つめる。
「部長、やることは違っても、部は同じですから。だから、応援だけでも、これからもしてもらえると嬉しいです…!」
 ぶわっと紗由の目にまた涙が浮かぶ。
 気づけば、舞菜、香澄、かえも、うっすらと泣きそうな顔になっていた。
 そんなしんみりした空気を実の笑い声が一掃した。
「あーっはっはっは。おっかしー。もうやめてよねー、笑かさないでよー」
「え? みい先輩…?」
「なんで笑うんだい、副会長」
「だってー。……ぷくく。ぷくくくく……」
 実が笑いながら瑞葉に「あんた、言いなさいよ」と指で指示をした。
 瑞葉が、どうしたもんかな…と困惑した様子で苦笑する。
「なあなあ、うち、まだ状況がよく呑み込めてないんやけど、うち、やめることになってるん?」
「…え」
「えっ」
「そう、ですよね…?」
 舞菜が瑞葉に尋ねる。
「えー、なんでやのー? うち、全然出るで、プリズムステージ」
「…え」
「ええっ」
「「「「ええええええっ!?」」」」
「なんでそんなに驚くん」
「…だって、ぜんぜん練習に来ないのに他の部には行ってるし……」
「部長さん…部が認められて、安泰で、引退で……」
「だから、てっきり、もうアイドルはやめるものだと」
「なんでやのー」
 もういややわあ、と言わんばかりの手つきで瑞葉が手をひらひらとさせる。
 相変わらず実はひいひいと笑っていた。
「…まさか…早とちり…?」
「そうなんですか、部長」
 ここまで黙って聞いていた紗由が瑞葉に聞いた。
「うん。うち、やめへんよ。練習休んでたのは悪かったけど、プリズムステージには出る」
「じゃ、じゃあ、なんで他所の部に…!?」
「んー。実はな、みんなのレベルアップのために、経験が必要やろって思て、文化祭でのKiRaReの出場権を生徒会に交渉したんよ。そしたら、生徒会長さんが、『お前たちの部のせいで長谷川が全然仕事しない! 文化祭に出たかったら、まず仕事をしろ!』って言ってきて、実ちゃんは事務仕事を、うちが部活監督の仕事を代わりにやって、たまってた仕事を片付けてたってわけなんや」
「……な……な………な……………な~~~っ!」
 紗由が思いっきり大きな声で叫ぶ。
「なんだー、そうだったんですねー」
「…生徒会の人質になっていただけ…」
「ナイスだよ、部長」
 舞菜、かえ、香澄がほっとして笑い出した。
「もうー。いややわあ~。うちがせっかく頑張ってたのに、誤解してくれて~」
「ほんとですよねー」
「…いや、かえは本当は部長を信じていた」
「はは、部長がやめるわけなんて、あるわけがなかったのさ」
「香澄さんが言うから、わたしもついつい信じちゃった~」
「ははっ、悪かったよ」
「もうー、みんないややわあ~」
 和やかに笑う一同。
 その笑い声を消すように、バン! と紗由が机を叩いた。
「笑い話になるかーい! どんだけ心配したと思ってるんですか! 部長にとったら、もうプリズムステージに出る必要なんてないから、だから、だから、私……心配で、申し訳なくなって、でも、部長とずっと一緒にプリズムステージ出るんだって思ってたから、それが当たり前になってたから……」
 勢いよく切り出した紗由だったが、言いながらまた泣きだしてしまった。
 うっ……と紗由が目に涙をためる。
「ぶ、ぶ、部長のばかあ~~~~っ!」
「あー。よしよし。よしよし、ありがとなあ、紗由ちゃん」
「部長のばかあ! ばかばかばかあ!」
 我慢していたものが吹っ切れて、紗由がわんわんと泣き始める。
 瑞葉は優しく紗由の頭を撫でた。

 

「ごめんなあ、ほんまにごめん。ちゃんと話しておけばよかったなあ…」
「ほんとですよ! ただでさえやる気があるんだかないんだかわからないのに、こんなことされたら、もうやめるんだって……、誤解して……」
 ぐすっ、と紗由が涙をすする。
 瑞葉が優しく紗由を撫でる。
「うん。そういう誤解をさせてしまったのは全面的にうちが悪いな……。確かにみんなの言う通り、うちはもうプリズムステージに出る必要なんてあらへん。けどな……うちも、夢を見とうなってるんよ……これでもな」
「え…? 本当ですか?」
 紗由の問いに瑞葉がこくんと頷く。
「紗由ちゃんの誘いに乗ったとき、最初は部の存続のためやった。けど、舞菜ちゃんが来て、かえちゃんが来て、香澄ちゃんが来て、実ちゃんが来て……。こんなに賑やかになったん、久しぶりで。みんなでいろんなとこ行って、いろんなことして……。6人で踊って歌って、笑顔になって……。舞しかできひんうちがポップスのステップを踏んで歌う日がくるなんて……。めーっちゃ楽しい毎日やったわ」
「部長……」
「部長さん……」
「相変わらずダンスはへたくそやし、ステップも軽々できひん。歌ものんびりや。リズム感? なにそれ美味しいの? って…。けどな、みんなと一緒にやってたら、アイドルもええなあって思うようになったんよ」
 瑞葉が紗由に微笑みかける。
「だからな、紗由ちゃん。申し訳なくなんて思わんとって。うち、紗由ちゃんに誘ってもらって良かったって、今は心からそう思ってる。だから、こう見えてもやる気はあるんやで。まだまだみんなと一緒にやりたいし、プリズムステージもあきらめてへん。うち、これからもめっちゃ頑張るから。だから、うちのこと信じてや、な、紗由ちゃん」
 瑞葉はそう言うと、紗由の目をしっかり見たまま笑った。
 紗由が涙をぬぐう。
「はい。わかりました。もう大丈夫です!」
「頑張りましょう、部長さん!」
「その言葉を待っていたよ、部長」
「…のぞむところだ」
「ふふふ。よかったわあ~」
「でも、生徒会の仕事を手伝ってるってこと、もっと早く言ってほしかったです!」
「そうですよ、部長さん!」
「そこは部長のギルティだね」
「あー、そうやんなあ、ごめんなあ。実は、まだ生徒会とは交渉中でなあ。今日中に仕事を終わらせへんと、文化祭の件は却下されるかもしれんのよ。やし、決まってからやないと言いにくくてな~」
「えっ、今日中!?」
「仕事って、あとどれくらい残ってるんですか?」
 実が机の上に山積みになっている資料を見る。
「ま、この山を全部読んで、受理するか却下するか決めればいいって感じかしらね」
「それと、草むしりも残ってるねん」
「「「「えええええっ!?」」」」
「ぜんぜん終わりそうにないじゃないですか!」
「そうやねん。ピンチやろー?」
「…こんなとこまでのんびり…」
「さすがボクたちの部長だね」
 生徒会室の中に笑い声が響き渡る。
 ひとしきり笑いあったあと、紗由が腕まくりをした。
「じゃあ、こうなったらみんなで手伝うしかないわね…! やるわよ、舞菜、かえ、香澄さん!」
「了解!」
「…資料の判別はかえに任せて。最近開発した秘密兵器がある」
「かえちゃんってほんと何者……?」
 そして、紗由とかえが資料を、草むしりを舞菜と香澄が手伝うことになった。
「頼もしい後輩がたくさんね」
 実が瑞葉に微笑む。
「そやな…。去年に比べたら…えらいにぎやかな部になったわあ~」
 そう言って瑞葉も誇らしそうに笑顔になった。