19th stage!

「みい、新曲を発表する」


扉イラスト:和泉つばす 挿絵イラスト:稀星学園高尾校美術部




「はーい、今日の練習は終了~~!」
 瑞葉が手を叩いてダンスのレッスンを止める。
「だいぶ、皆の調子も良くなって来たなあ」
「はい! 文化祭のステージも決まりましたし、後は全力でがんばるだけです!」
「紗由ちゃん、がんばるだけでは文化祭のステージは成功できへんよ」
「え? 何か足りないものがありますか? このところの練習の成果が出てきて、ダンスも歌もずいぶん完成度が上がって来てると思うんですが…」
「それはね、紗由くん…、曲数だよ」
 そう言ったのは香澄だった。
「曲数…!」
「あ、そうか! ステージで一曲歌うだけじゃないんだね」
 気づいた舞菜が声を上げる。
「そういうことや。うちら謡舞踊部が今回の文化祭ステージでもらった時間は一時間もあるんよ」
「…一時間は、長い」
「そう。そやから今、うちらに一番必要なものは…」
「新曲みぃ!」
 ずっと腕を組んで黙っていたみいが声をあげた。
「みい先輩!」
「やっぱわかってるなぁ、実ちゃんは」
「ふっ…今までのKiRaReの曲の多くを担当してきたのはみいみぃ。そんなことは先刻承知之助みぃよ」
「承知の…すけ? って何? 知ってる舞菜?」
「さあ? まだ授業で習ってません」
「…意味不明」
「こんな言葉も知らないなんて、一年生はまだまだお子ちゃまみぃね? そんなことではクールな作詞はできないみぃよ?」
「まあまあ。それにしても大丈夫なのかい、みい先輩? 一時間のステージとなると、相当新曲が必要だけど…」
「大丈夫みぃ! みいにおまかせみぃ!」
 自信満々に言い切るみいだった。



「ねぇねぇ舞菜、あそこを歩いてるの、みい先輩じゃない?」
「あ、本当だ!」
 その翌日の放課後、舞菜と紗由が見たのは、廊下を一人、隠れるようにして歩いているみいの姿だった。
「どうかしたんですか、みい先輩?」
「ドキッ!」
 舞菜と紗由に声をかけられて、一瞬固まるみい。
「な、なんだ、紗由と舞菜みぃか。ビックリしたみぃよ」
「どうしてビックリしたんですか?」
「あれ? ここって音楽室ですよね? みい先輩、ここに何か用があるんですか?」
「じ、実はその、みいは今、新曲をこの音楽室で制作しようと思ってやってきたみぃ」
「そういえば、昨日作るって言ってましたね」
「うわー! わたし、歌を作るところ見学していいですか?」
「ダメみぃ!」
 即座に否定するみい。
「お、音楽の制作は精神の集中が必要! いいみぃか? みいがこの部屋に入って一人っきりで曲作りをしている間は、決して扉を開けてはいけないみぃ。みいが自分から出てくるまで、絶対にぜぇ~~ったいに入って来てはいけないみぃ!」
「わ、わかりました…」
「約束みぃよ!?」
 そういうと、みいは音楽室の中に入ってドアを閉めた。
「みい先輩ってここで歌を作ってたんだね」
「私も知らなかったわ。でもいいのかしら、もうすぐ部活の時間が始まるけど…」
「あ、本当だ! 早くいかないと遅刻になっちゃう」
「おかしいわね。いつもなら、みい先輩が一番遅刻にうるさいのに」
「おまたせしたみぃ!」
 みいがいきなり音楽室から顔を出す。
「うわ! び、ビックリした」
「先輩! 歌を作ってるんじゃなかったんですか?」
「歌はもうできたみぃ!」
 みいの手には、楽譜があった!
「え? もうできたんですか!?」
「まだ、入って10分くらいしか経ってないのに…」
「ふっ、素晴らしい音楽に必要なのは時間じゃなく、センスみぃよ」
「自信満々ですね」
「聞いてみてのお楽しみみぃ!」

 三人は部室に向かった。
 部室ではかえがパソコンに楽譜を読み込ませる。
「ボイスノイドシステム、スタート」
 パソコンからは、音楽と同時に、香澄の声に少し似た、合成音声の歌が流れ始めた。
「…いい曲」
 曲を聞き終わり、かえが呟く。
「ほんまやなぁ。さすがやわ」
「ボクも思わず聞きほれてしまったよ」
「私もです。感動しました」
「すごいです、みい先輩!」
「ふっ、みいの腕を持ってすれば、この程度軽いみぃ」
 そういいながら、自慢げな表情のみい。
「けどな、実ちゃん。新曲は一曲では足りんのや。一時間のシーンを埋めるにはもっともっと曲が必要なんよ」
「わかってるみぃ! 明日を待つみぃよ!」
 すべてまかせろといわんばかりに、胸を張るみぃだった。



 そしてその翌日の放課後。
「ねえ舞菜、今日もみい先輩、音楽室で新曲を作ってるのかな?」
「たぶんそうだと思うけど、どうかしたの?」
「うん、私ちょっと…」
「ふっ、先輩が曲を作っているところを見てみたいんだね」
「香澄先輩!」
「実を言うと、ボクも先輩の曲作りに興味があってね。どうだい、一緒に見学に行こうじゃないか?」
「行きましょう!」
 三人が音楽室に行くと、ドアの前にははかえが立っていた。



「かえちゃん!」
「かえも私たちと同じだったの?」
「よかったよプリンセス、じゃあ、中に入ろう」
「…ダメ」
 首を横に振り、両手を広げて舞菜たちを止めるかえ。
「ど、どうしたの?」
「…中を見ては、いけない」
「別に邪魔しに入るんじゃないわよ」
「そうだよプリンセス。ボクたちはただ、先輩の曲作りの様子を見てみたいだけなんだ。いいだろ、中に入っても?」
「…ダメ。エンジェルでもダメ」
 強く首を振るかえ。
「…かえはみい先輩に言われたの。『みいが新曲を作っている間、決して中を覗かないと約束して』って」
「そ、そんな約束に何の意味があるの?」
「…ある」
「あ、もしかして…」
「どうしたの舞菜?」
「このお話、わたし知ってます。そうです。確か、欲にかられた紗由さんが、約束を破って中を覗き込んでしまうと…」
「わ、私が破るの!?」
「…そう、中にはやせ細った先輩がいる」
「ああ! まさか、そういうことなの!?」
 思わず叫ぶ紗由。
「…そう、そして先輩は立ち去ってしまう」
「あああ~~!」
 感極まり、ガックリと膝をつく紗由。
「みいよ~~~! みいよ~~~~~!」
「みいよ~~~! みいよ~~~~~!」
 紗由に続いて、舞菜とかえも窓の外の空に向かって声を上げる。
「なるほど、鶴の恩返しか。だが、ボクは入らせてもらうよ」
 そう呟くと、中に入ろうとする香澄。
「…エンジェルも通さない!」
「ダメです、香澄さん!」
「わたしも、ダメです!」
「まさか、紗由と舞菜も邪魔をするのかい?」
 少し驚く香澄。
「ふっ、だが、押してダメなら引くのみさ」
 そういうと、香澄は突然舞菜や紗由たちから見えなくなってしまう。
「あれ? 香澄先輩!?」
「香澄さ~~ん!」
「…エンジェル、どこ?」
 探す三人。
 その時、音楽室の中から大きな叫び声が響く。
「きゃあああああっ! 誰か、誰か来てみぃいいい!」
「みい先輩の叫び声!」
「…呼んでる」
「助けに行かなきゃ! あれ? でも確か、絶対に入るなって言ったのはみい先輩だったはず。でも呼んでるのはみい先輩だし… うーん、うーん」
 頭を抱える紗由。
「助けてみぃいいい!」
「行きましょう、紗由さん!」
「…行く」
「わ、私も!」
 三人はドアを開けると中に飛び込んだ。

 

 音楽室の中にいたのはみい。そして、みいが見ているのは窓。
 その窓には人影が!
「…エンジェル!」
「香澄先輩!」
「ははっ! 騒がせてしまってすまないね」
 香澄は窓を開けると、中に飛び込んでくる。

 

「かかか、香澄だったみぃ? び、ビックリして思わず叫んでしまったみぃ!」
「驚かせて悪かった、みい先輩。ただボクは、興味を覚えたものはどうしても見たくなる性格なのでね」
「そんな理由で窓から入るとするなんて…!」
「しかも音楽室って三階なのに…」
「…さすがはサウザンドキルエンジェル」
「ふっ、懐かしい呼び名だ」

「それで、曲作りの秘密はわかったんですか?」
「ああ、大きなヒントをゲットしたよ。実はね、ボクが最初に覗いた時には、音楽室にいたのは一人じゃなかったんだ」
「な、なんですって!」
「…じゃ、誰が」
 あたりを見回す舞菜たち。
「ごめんなさい、私よ」
 ピアノの影から現われたのは――謡舞踊部の顧問の神崎先生だった!
「か、神崎先生!」
「なんで先生が?」
「そうか、わかったぞ。今、ボクの紫色の脳細胞がひらめいた!」
「…どうしたの、エンジェル?」
「そう、神崎先生はボクたちのいる謡舞踊部の顧問でありそして…、音楽の先生なんだよ!」
「あ、そういえば!」
「ということは、まさかみい先輩…」
「黙っててごめんなさいみぃ! じ、実は新曲は全部、先生に手伝ってもらって作っていたみぃ…」
「ということは、音楽室で一人っきりで曲作りというのは…?」
「嘘だったみぃ。曲のほとんどを先生に作ってもらっていて……時にはできた曲の楽譜を受け取るだけの時も……」
「た、確かに昨日は、あっという間に新曲の楽譜を持ってきてビックリしたけど、こういうわけだったのね」
「ごめんなさいね。私達、皆をだますつもりじゃなかったんだけど…」
 頭を下げて謝る神崎先生。
「いえ、先生が謝ることではないような…。ねぇ、紗由さん?」
「もちろんです。感謝したいのは私達のほうです。でも先生、どうして曲作りを手伝ってくれることになったんです?」
「実はね、私、皆さんの活躍をずっと応援してて、何か手伝いたいなって思ってたの。そんな時に、長谷川さんから新曲がたくさん必要だって話を聞いたものだから、ぜひ手伝いたいなって、曲作りに立候補させてもらったの」
「それじゃあ先生は、私達KiRaReの活動を見てくれてたんですか?」
「ええ。もちろんよ。だって私、みんなの顧問ですもの」
「先生が、そんなに私たちのことを応援してくれてたなんて…!」
「…感動した」
「うん、感動した。高尾校の中ではボクたちの活動は支持されてない印象だったからね。先生がこんなにボクたちの活動を理解してくれているなんて…。だが、それなら別に神崎先生のことを隠す必要はなかったのでは?」
「ううう。ちょっとした出来心みぃ…」
「出来心?」
「なるほど。全部自分の手柄にしようとしてたってわけだね」
「ううう。…反省、みぃ…」
「そんなに落ち込まないで、長谷川さん」
「せ、先生!」
「そんなことより皆さん、今日も新曲を持ってきたのよ」
 神崎先生の手には、新しい楽譜があった。
「うわー、楽しみです!」
「私も私も!」
「…早く聞きたい」
「ボクもだよ」
「うちもや!」
「ええ! 瑞葉いつの間に来てたみぃ?」
 気がつくと、ちゃっかりとみんなの真ん中に座っている瑞葉。
「うちもな、ずっと新曲ができるところを見たいと思うてたんよ。それで放課後になってから音楽室にずっと…」
「さすがは部長…」
「ふっ、ボクの負けだよ」



 神崎先生がピアノを演奏し、新曲を歌ってきかせてくれる。
 六人はじっと聞き入っている。
「いい曲ね」
「うん、素敵だね」
「可愛いみぃ」
「…名曲」
「ボクも賛成だ」
「ほんま、ええ曲やわあ。おおきに、先生」
「いいえ。そうだ、じゃあ皆さんも一度、歌ってみませんか?」
「賛成!」
 声を揃えてうなずく六人。
「サビはみいが歌うみぃ!」
「ちょっと待ってください! サビはやっぱり私が!」
「いや、ボクがいいんじゃないかな?」
「うちも、歌いたいなぁ」
「…実は、かえも」
「わたしも歌いたいです!」
「あはは、嬉しいわ」
 嬉しそうに言うと、神崎先生はピアノを弾きはじめる。
「じゃあ皆さん、レッスンを始めましょう。誰がどこを歌うかは、皆の様子を見てから決めましょう」
「はい!」
 音楽室に、先生の弾くピアノの音と、KiRaReの歌声が響き渡った――