8th stage!

「謡舞踊部、課題曲を受け取る」


扉イラスト&挿絵イラスト:和泉つばす




プリズムステージの予選が終わり、最終ステージへの進出が決定した謡舞踊部の一同は、準決勝を前に部室に集まっていた。
「いいみぃ? 次の準決勝からはトーナメント制みぃ!」
「部長、相手のグループを研究とかしたほうがいいんでしょうか?」
「それもあるんやけど、実はその前に、準決勝では今までにない課題があるんよ。それは……課題曲!」
「課題曲!?」
舞菜と紗由が同時に言った。
「そう。準決勝以降は、今までみたいに好きな曲を選んで出場する自由曲部門の他に、運営が用意した課題曲を歌う課題曲部門があるんよ」
「そしてその課題曲は、運営が用意した曲だけど、その編曲と歌詞はグループごとに自由にしていいってことになってるみぃ」
「で、これがその課題曲なんやけど…」
瑞葉がプレイヤーのボタンを押すと、部室内に課題曲のデモが流れた。
「…初めて聞く曲」
「つまり、準決勝のためのオリジナル曲、ということだね」
「この曲をわたしたちでアレンジしなきゃいけないなんて…」
 うーん……と一同は考え込んだ。
「それでな、ここからがうちの本題やねんけどな」
ん? と全員が瑞葉を見る。
「一週間後までにそれぞれで作ってみて、持ち寄ってみいひん?」
「え…?」
「「えええええっ!?」」



翌日。課題曲作りのために舞菜は紗由を自分の部屋に招いていた。
「紗由さん、わたしとペアを組んでくれてありがとう」
「そんな…こちらこそよ、舞菜。部長の無茶ぶりに一人ずつでなんとかするなんて、難しすぎるもの」
「うん。わたし、何にもわからないから不安で…。でも紗由さんがペアになって作ろうって言ってくれて、ほっとしたよ」
「でも、かえはすぐに香澄さんと組んじゃうし、部長は実先輩と組んじゃうし、どうペアを組むかはほとんど話し合われなかったけどね。まったくみんな自由なんだから…」
「あっ……そっか。ごめんなさい。紗由さんにとったら、わたしと組んでもひとりで作るのとそんなに変わらないもんね…」
「えっ? 違うわよ? そういうことが言いたかったんじゃないのよ? 私は最初から舞菜って決めてたわよ?」
「ほんとに…?」
「ほんとよ。だから一緒に頑張りましょ」
「うん…っ。ありがとう」
「それにしても……」
 紗由は部屋を見渡した。
「いい部屋ね。明るくて、舞菜らしいわ」
「えっ、そ、そうかな…? わたしは紗由さんちに行ってみたかったけど…。きっと、すごく女の子らしくてきれいなお部屋だろうし」
「あー…えっとね…、その…。うちはちょっと、お母さんが…ね…」
「えっ、お母さん?」
「ううん、何でもないの。それより課題曲作りを始めましょ」
「うん、そうだね」
二人はテーブルについて課題曲の資料を広げた。
「うーん…でも、アレンジなんてどうしたらいいんだろうね」
「部長も無茶ぶりして、ほんと困るわよね」
 紗由はそう言いながら、鞄から一冊のノートを取り出した。
「でね、舞菜。実は私――」



 と、紗由が何かを言いかけると、同時に舞菜も話し始めた。
「実はわたし、歌詞は書いてみたんだけど…」
「えっ!?」
 紗由は上ずった声をあげ、思わずノートを持つ手に力がこもった。
「でも、書いてたら、こんなこと書いてるなんてすっごく恥ずかしいって思っちゃって…詞を誰かに見せるなんて絶対無理って思っちゃった」
「……そ、そう…? 絶対無理ってことはないんじゃない?」
「ううん、無理だよ。こんなこと考えてるんだ~、ってみんなに知られるなんて、わたしにはできないよ…」
「そ、そっか…」
 紗由は手に持っているノートをぎゅーっと握りしめ、黙り込んでしまう。
「でも――」
「でも!?」
 と、舞菜の言葉に、紗由は再び上ずった声をあげた。
「この前読んだ本の中に、すごくいい言葉がたくさん載ってたから、それを参考にして歌詞を作るのってどうかな?」
「ほ…本!?」
「きっと紗由さんも気に入ってくれると思うんだけど」
 舞菜は本棚へ向かい、その本を探し始めた。そしてすぐに探し当て、
「あった! これこれ! 『はじめてのラップ入門』。最後のページにね、ラップ de 占いっていうコーナーがあって、すごくいい感じなんだ」
「……ラップで占い??」
「えっと…紗由さんって何座?」
 舞菜が本をめくりながら紗由に問いかける。
「お、おとめ座だけど……」
「そっか。えっと、おとめ座はね~……『夢に向かってコツコツ頑張る。そんな努力家に捧げるラップ』だって。紗由さんにぴったりだね!」
「え?」
「読んでみて」
 舞菜は紗由にラップが書かれてある箇所を見せながら本を渡した。
 紗由がラップを読んでみる。
「『ド、ド、ドリョク! コ、コ、コンジョ! タッセイ! タッセイ! オレ・ノ・ユメ! カーサン(アリガト!)、トーサン(アリガト!)、コノオン、ミライデ、ゼッタイ、カエス!』……って、なにこれ…」
「えへへ、おもしろいよね~」
笑顔を見せる舞菜とは正反対に、紗由はしばらく呆然としていた。
紗由は手に持っていたノートをそっと床に置くと、すくっと立ちあがり部屋の扉へと向かう。
「ちょっと、お手洗い借りるわね……」
「あっ、うん、どうぞ。玄関のすぐ隣だよ」
「ありがと…」
紗由はぽつりとそう言うと、とぼとぼと部屋を出て行った。
「ラップ de 占い、か…………はあ……………………」
 紗由は重たい溜息をついた。
(もう、私のノートを見せるなんて、とてもできる感じじゃない。……あきらめよう。私の歌詞を読んでもらおうなんて、百万年早かったんだわ…)
「ノートなんて、持って来るんじゃなかったな…」
廊下の壁にもたれながら紗由はしばらくの間、黄昏れた。
しばらくすると、紗由はとぼとぼと廊下を歩き、舞菜の部屋へと戻ってきた。
「お待たせ」
しかし、部屋の扉を開けて真っ先に紗由の目に飛び込んできたのは、ノートを読んでいる舞菜の姿だった。
「ええっ!? ちょ、舞菜!? そのノート…!」
 思わず紗由は舞菜に駆け寄り、ノートを取り返そうと手を伸ばした。しかし、その時、
「『空よ…、空よ…、大空よ…。どうしてあなたは空なの…?』」
「ひああっ!」
 声に出して読まれ、紗由はばたりとその場に倒れ込んでしまった。
「『好き…。好きって何だろう? 好き…。いろいろあってもいいの?
好き…。私にはまだわからない……。好き…。でも、好き……』」
「やめてえ…!」
「『風に吹かれ、息を吸って、心で感じて、大自然。
星の上、ちっぽけで、ちっぽけな、私。
そう、これが、世界と一つになるってことなんだ…』」
「それ以上はダメえ…!」
 次々と読み上げていく舞菜の前で、紗由は倒れ込んだまま動かなくなってしまった。
 ようやく舞菜はノートから顔をあげ、紗由のことを見る。
「あれ? 紗由さん、どうしたの?」
「わ、私なんか…、私なんか…、塵となって、この世から消えてしまえばいいのよ…っ」
「紗由さん?」
「わかってるわよ、私の詩なんてラップ de 占いよりダメダメなんだってことくらい! 変なんでしょ? そうなんでしょ? 声に出して読み上げるくらい、恥ずかしいポエムなんでしょ!」
「えっ、もしかして、このノートの詩って、みんな紗由さんが書いたものなの?」
「……うう……」
「泣かないで、紗由さん。素敵だよ! このノートに書かれてある詩。全部、素敵だよ!」
「……えっ?」
「わたし、すごく感動した…! だから思わず声に出して読んじゃったんだよ」
「舞菜……。それ、本当?」
「うん! ……その、何て言えばいいのかな…。わたしの気持ちを全部言葉にしてくれる感じがするっていうか…。心にすっと入ってきて…、だけどぽかぽかあったかくて…。どれもほんとに素敵だよ。紗由さんは詩人だね…!」
「ほ…ほんとに?」
「こんな素敵な詩を書いて来てたのなら、早く見せてくれればいいのに」
「ま、舞菜ぁ…!」
 紗由は起き上がると同時に舞菜の両手を握りしめた。
「あなたならわかってくれると信じていたわ! やっぱり舞菜は最高のパートナーね!」
「課題曲の詩も、わたしたちの分は紗由さんが書いてよ。わたし、紗由さんの歌詞で歌いたい」
「うん! 任せて! 実はね、まだまだあるのよ!」
「えっ?」
 紗由は鞄の中からノートの束を取り出した。
「さあ、この中から好きなのを選んでちょうだい、舞菜!」
「こんなに…!?」



その頃、かえの部屋でも、かえと香澄が課題曲について話し合っていた。
香澄の用意してきた歌詞を読み、かえが恍惚とした顔で香澄を見上げる。
「…さすがエンジェル。完璧な出来栄え」
「そう言ってもらえて光栄だよ、プリンセス。だが、まだ何かが足りない…。プリンセスのインスピレーションにインスパイアされたい」
「…任せて、エンジェル」
「それで、曲調はどうしようか。ボクはこの課題曲はアップテンポでフィックスなんだけど」
「…同じく。かえもこの課題曲はそうするべきだと思った。実は試作もある」
かえはパソコンを操作して試作を流した。
「さすがプリンセス。パーフェクトでエターナルな響きだよ…」
「…エンジェルにそう言ってもらえて恐悦至極の極み」
「ボクたちの課題曲があれば準決勝突破は堅いな。部長やみんなにも喜んでもらえるよう、完璧に仕上げよう。そして、この星の歴史にボクたちのピースを刻むんだ」
「…いつか一枚のパズルが完成するまで…エンジェル、あなたにどこまでもついて行く」
「ボクもだよ、プリンセス」



そして、実と瑞葉も実の部屋で課題曲制作に勤しんでいた。
……が、数時間ほど前からDVD観賞会へと変わっていた。それは実がみいとして活動している記録のもので、ちょうどテレビ画面にはみいが決めポーズと共に最後のフレーズを歌っているところだった。
「『みいの微笑み くりーみぃ♪』」
「うわ~、なんやこれ、めっちゃすごいや~ん。こんなん考えつくなんて、実ちゃんてほんま天才やなあ~」
 差し入れとして持ってきたおせんべいをかじりながら瑞葉が言った。
 そこに、実が勢いよくマグカップをテーブルの上に置く。
「あのね! 全部一人でプロデュースするって、すっごくすっごく、大っ変なのよ! もう…っ、苦労だらけなのよ…っ! わかるみぃ!?」
「そうなんやろなあ~。うちが想像してるより、めっちゃ大変なんやろなあ」
「でもね! 歌作ったり、衣装作ったり、振り付け考えたりなんていうのは大変でも何でもないの…! 一番つらいのはねっ、お客さんに覚えてもらうまで、一人っきりで歌い続けなきゃいけないことみぃ…っ!」
 実は近くにあったティッシュで鼻をかみながら話を続けていった。
「最初の頃、歩行者天国だってのに、精一杯パフォーマンスしても、足を止めてくれる人なんて、ほっとんどいなかったみぃ…っ。でもっ、地道に活動を続けていたら、ちょっとずつ、ちょっとずつお客さんが来てくれて…っ、
声かけてくれるようになったみぃ!」
「そうか~。そうやって見てもらえるようになってったんやねえ。えらいわあ~」
「そうなのみぃ! すっごいことなのみぃ! わかるみぃ? この感動が! お客さんが見てくれるたんびに、また頑張ろう、もっと頑張ろうって、力になったんだからみぃ…っ!」
 鼻水だけでなく涙もぼろぼろと流しながら実は話し続けていた。そんな実を瑞葉が撫でる。
「よしよし。努力する実ちゃんは天下一品のアイドルや」
「なによ! 今さら私の魅力に気づいたって遅いんだみぃ! あんたって、なんでいつも私の心の中にずけずけ入ってくるのよぉ…! うええん!」
「そんなん、実ちゃんのことが好きやから、仕方ないやん~」
「うっ、うう、うるさーい! あんたのことなんか仲間だなんて思ってないんだみぃ! びえええん!」
「うんうん、そうか~。でもうちはみいちゃんのことは大事な仲間やって思ってるからな~。ほな、次はこれ見よな~」
 瑞葉は別のDVDを再生した。実の苦労話はその晩遅くまで続いて行った。



一週間後。謡舞踊部の一同は、それぞれの作ってきた課題曲を持ち寄っていた。
「みんな、ご苦労さんやったなあ。どんなんができてるか楽しみやね」
「ま、いくら聞いてもみいたちの曲が一番いいに決まってるけどみぃ」
「それはまだわからないよ。ボクたちも勝ちを譲る気はないからね」
「…そう。かえたちが一番なのは決定事項」
「わ、わたしたちだって……負けてません。ね、紗由さん!」
「ええ! 私と舞菜が考えたアレンジと歌詞は世界一! です!」
「みんなすごい自信やなあ。これは聞くのが楽しみやわ~」
「そういえば……どうやって決めるんですか、部長。このままだと多数決をとっても2対2対2の平行線のままだと思うんですけど」
「ああ、ほんまやね。そこは考えてへんかったわ…。どうしよう?」
「そ、そんな…っ! もう、部長! ちゃんと考えておいてくださいよぉ!」
「しゃあないな。これはみんなで何回も聞きあって、投票して決めるしかないなあ~」
「仕方ないですね…、そうしましょう。わたしたちの課題曲を決めるために…!」
「ほな、一曲目、スタート!」
 そうして、部室では遅くまでデモテープを聞きあうことになった。
 果たしてどの曲が選ばれるのか…!?